• matt sounds
  • OVERHEAT MUSIC

いとうせいこう 『再建設的』


Interview by  平井有太(マン) 

『建設的』から30周年、『再建設的』をリリース。さらに自身のコネクションを縦横無尽に体現する「いとうせいこうフェス」の開催。それでは一筋縄ではいかない幅広い活動について、いとうせいこうロングインタヴュー。

●『業界くん物語』のアルバムが85年、同年にはハードコアボーイズ「俺ら東京さ行ぐだ」(ほうらいわんこっちゃねえMIX)もあります。ですので、「30周年」と言った時、せいこうさんにとってスタートは『建設的』(86年)だったのかな?と。

いとうせいこう( 以下、S):今オレが入ってる事務所の社長が、当時『建設的』のディレクターだったの。それで「いとう、30年だぞ」とか言い始めて、だからオレがちゃんと数えてるわけじゃないんだよね。

●「東京ブロンクス」という言葉は、大きなキーワードです。同時に大都会「東京」と、当時のブロンクスの在り方はかなり乖離しています。東京でブロンクス産の文化を受け止めるということは、どういうことでしたか?

S:当時いろいろな音楽を先に聴いたり、体験もできる人たちは限られていて、そういう人たちはヒップホップの構造をいち早く敏感に受け止め、「これは面白いぞ」ってヒップホップにいったんだよね。ブロンクスでは遊びとして、楽器もないからターンテーブルを使って、盗電して、そういう成り立ちで、彼らは無意識なわけ。それはつまり、『建設的』に対する『業界くん』みたいなもので。彼らが無意識にやっていることを、僕らは意識的に見て「これ、サンプリングじゃん」、「現代音楽だよ、これ」というものと、同時に「こんなに乱暴に幼稚な脚韻を踏むんだ」という「韻の在り方」。つまり、ほとんど童歌みたいな面白さと「誰も楽器を弾いてない」という反音楽性を、現代音楽的に感覚で捉えた人たち。それがヤン(富田)さんとか(高木)完ちゃん、(藤原)ヒロシもそうかもしれないけど、そこで起きていたことがどんな価値を持っているかということを、別の側面から見たんだよね。つまり、俯瞰で。

●最近完さんと渋谷でお会いしたら、ボソッと「渋谷がヒップホップのメッカって、なんか違うよね」、「本来もっと下町の方がそうであって」と。

S:それは今、あまりいいこととも思わないけど、川崎とかさ、本当にヒップホップになっちゃったっていうね。

●今はそれを至近距離から見てもいる。

S:あとは下町ね。下町もラッパーは若い子たちが多くて、それこそまじブロンクスだよね。「貧困」という構造がそれを生み出すということが、起きちゃってるんだという。逆に言えば、30年の間に世の中がひっくり返るくらいのことが起きていて、そこを僕らの世代がもう一回捉えないといけないと思って見ているけど。

●ヒップホップの生い立ちを追えばジャマイカに辿り着き、その核心にダブがあります。そういった想いでダブの世界に身を投じ、DUBFORCEの一員になられたんでしょうか?

S:自分にとってもレゲエ、ダブ、ヒップホップの先見性みたいなものは、海の向こうから来たものに日本語を乗せる最初の最初から好きだったし、意識していた。なんせオレは「ジャパラパマウス」だから。だから当時ヤンさんとライブをやっても、必ず1曲はダブというか、ラガマフィン、トースティングの曲があって、日本語で乗せてたの。でも、あんまりそこを語ってくれる人はいなくて。だって、むしろジャマイカ英語と日本語英語が近いから、トースティングの方がラップより日本語に合ってるんだよ。その親近感みたいなものはずっとあった。だから今回DUBFORCEが立ち上がったのを見ていた時、それはAsamoto(朝本浩文)Lovers Aidの時にみんなが集まってそこにオレもいて、もともとDUB(MASTER X)ちゃんには、「『いとうせいこうイズ・ザ・ポエット』というバンドをつくりたい」ってDMをしてたわけよ。そしたらDUBちゃんが、「実は増井とGOTAと3人でDUBFORCEってやろうと思ってる」と言ってて。だから「たまにそこに混ぜてよ」って、でもいろいろ面倒臭いから、もう「オレが入っちゃえば早い」と(笑)。自分としては、『MESS/AGE』を出した後ヒップホップの世界から遠ざかってる時期、その間も(須永)辰緒とかDUBちゃん、完ちゃんをDJに据えて、その上でポエトリー・リーディングをしてたんですよ。そこでは、ラップは4小節、8小節の中に収めなきゃいけないということ自体に窮屈な感じがあって、それがある限り音楽に言葉が負けちゃう。楽器はみんなずっとソロでも弾いてられるけど、ラップは用意してたものがなくなっちゃったらできないわけ。あ、もちろん、フリースタイルは別だよ。『MESS/AGE』のリリースパーティをラフォーレ飯倉でやって、ヤンさんとDUBちゃんが演奏の中でサンプリングでどんどん曲を出してる時、オレは「そこに音楽として入れない」限界を感じて、やめちゃったんだよね。

●PUBLIC ENEMYの台頭も大きかったと理解しています。

S:あれは、思想的にね。すごく連帯したいけど、あまりに人種のためのものになってしまっていて、「黄色人種は関係ない」と感じて。

●音楽活動の休止には、2つ理由があった。

S:でもそのうち「ダブ・ポエトリー」を思いつき、マイクの音を変調してもらって、本をたくさん持って行って曲によって読み替えるみたいなことをやってたら、それはいくらでもできた。それにリフレインって、何回も同じ場所を読んでると、聴いてる方も演る方も高揚してきて、それこそ「グルーヴ」なんだよね。それをダンスミュージックにならないくらいに抑えておくとか、あるいはオン・ビートにしちゃうとか、そういうことをやってるうちに「これは脈がある」って。そこにDUBFORCEが出てきてくれて、そこのみんなはすごいから、オレが違う本を読み始めても、音楽で反応してくれる。リフに行く約束が、オレなんか音楽的じゃないから盛り上がってきちゃうと「わかんないけど、とにかく読んじゃえ」ってなれば待ってくれたり、リフにはその後みんな目配せで入ってくれるし、その上しかも「演奏がいい」なんて、そんなバンドないでしょう。

●贅沢の極みです。

S:逆にオレも、みんなが出す音に反応して「じゃあ、あそこ読もう」、「ここは控えて、音と一緒にもう一回リフレインしよう」とか、その場で思いついてセッションしているというか。もちろん僕が音になっちゃう時もありますが、それができるということは、最高ですよね。それが、一番やりたかったこと。つまり、ラップだって「意味をどう音、どうリズムにするか」と考えてきたわけだから、DUBFORCEでは、日本語はもともとレゲエに乗せやすいから、乗っちゃう。むしろ、乗せても乗せなくてもどっちでもやれる。あとは、意味を人の心の中にズドーンと入れるようなテクニックを使うと、DUB MASTER Xが反応してビヨビヨ~ンと飛ばしたりしてて「うわ、ここでそれくるか。やるなあ!」みたいなことでやれてるから、そんなことまでできるバンドって、今までも見たことがない。

●日本語ラップのパイオニアとして「道なき道を切り拓こう」という自負、矜持はおありですか?

S:基本はまず、天然でやってるんだよ。だけどそこに何かが見つかるというか、「あ、無意識にこれをやりたかったんだ」という風に、どんどんどんどん行くわけよね。あと例えば、フリースタイルをやれる子たちを、ああやって観るじゃん?あの反射神経、脳みそには絶対敵わないじゃん?

●あ、「敵わない」と思っているんですね?

S:敵わない、敵わない。こっちは年寄りだからさ、人の名前だって「うーんと」って言ってるのに、韻なんか踏めないですよ。だから、逆に行くしかない。言葉をどれだけ洗練させられるかとか、どういう発音、声で人が「わぁ」と思うように朗読するかというのは、やっぱり若い子にはできないと思う。人生を重ねてるから。

●そこで読まれる詩の与謝蕪村、ナナオサカキは著名な詩人としてわかるものの、九鬼周造という、哲学者の方が含まれています。『「いき」の構造』(岩波書店)の著者で、詩との関連は予想外でした。

S:九鬼周造はハイデガーの弟子で、全集の中に『押韻論』というのが入っていて、20世紀前半に日本語の脚韻のことをすごく考えた人なんですよ。彼は、「日本において美学はどうあるべきか」ってことを考えて『「いき」の構造』をやったわけだけど、じゃあ「日本語において、西洋的な脚韻はどういう風に考えられるのか」ということもやったわけ。だから「韻」において、ものすごい先駆者なの。『「いき」の構造』は割と恣意的なところがあるけど、『押韻論』の場合はもっとちゃんと「韻」を分析して、しかも自分でも詩を書いちゃってる。その「自分が書いちゃってる」というところが、すごくいいと思うんだよね。哲学者が詩人にチャレンジしちゃったことが面白いし、すごくロマンチックな、青年みたいな詩を読んでるわけ。

●「粋」のスペシャリストなだけでなく、「韻」の先駆者でもあった。

S:そういう意味でのラッパーは僕よりも前にたくさんいる。本当の洒落で意味も音もかかってるのって、近松門左衛門なんてオレは「MC門左衛門」って呼んでるけど、韻の嵐なのよ。だから、過去どういう人たちが日本語をどう扱ったかということを含めて、今「自分が何をやるか」という問題にチャレンジできる場がDUBFORCEという。

●確かに、若手には達せない境地かと思います。

S:でも、「なんだか言葉ってすごいんだ」って思わせたら、オレの勝ちなわけじゃないですか。それを、すごいバンドのメンバーがいるから、「虎の威をかる狐」ですよ。あのバンドとだったら、何を言っても格好良く聴こえるんだもん(笑)。

▼▼次のページへ▼▼


ページ: 1 2 3