• OVERHEAT MUSIC

Shing02
なぜ「僕と核」?(前編)

●そしてそれを人間が止めることができない。

S:制御はできますが、その結果できたものをそう簡単に冷やすことすらもできません。

●レポートを制作し、大き過ぎる問題の根源を探るような行為を経て、その全貌の大きさを実感して、その上で音楽の力はやはり有効だなと感じますか?

S:それはもちろん感じますし、もう一度一つ前の質問に戻っていいですか?

●はい。

S:ウランに関して一つ言えることは、勉強すればするほど、1940年代当時、国家をあげての初めての核開発があったわけじゃないですか。核分裂が発見された100年前くらいから、まずイギリスが先だって技術を確立し、それをアメリカに持ってきて、そこにアインシュタインをはじめとしたたくさんの科学者が集結し、ある意味その当時の人間の叡智の結晶だった部分があった。それはそこに一種の探究心と言いますか、核の力を具現化するという、一種の強い好奇心があったと思うんです。

●それだけ強大なものを征服する「カタルシス」と呼べるようなものが、研究者たちの中にあった?

S:それはそうでしょう。「原爆の父」と呼ばれる物理学者、オッペンハイマーがトリニティ実験(1945年にアメリカ・ニューメキシコ州で行われた、人類最初のプルトニウムの爆弾実験)を目の当たりにした時、バガヴァッド・ギーター(ヒンドゥー教の聖典)の「我は死なり、世界の破壊者なり」という一節が心に浮かび、「世界の終焉を見てしまった」と言ったことがあった。そしてその反動が逆に、原子力発電に上手く誘導されていったんです。「私たちはこんな恐ろしいものをつくってしまった」と。だからその償いとして、電気をつくって経済に貢献しなければいけないという使命感があったというのが、ある種、科学者たちの暗黙の言い訳だったんですね。そしてそれがまた冷戦で煽られ、そういった人間のドラマがあって、今でこそビジネスライクに「ウランは大事なエネルギー源です」となっていますが、当時はもっと哲学的だったと言いますか。そこには人間の欲とか色んな葛藤があった上で、いわゆる倫理観も問われるような技術だったから、それを無理矢理ドライなものに凝縮していった。でも本当はその裏から見てみれば、核被曝の歴史は核実験もあれば劣化ウラン弾も使い続け、人類がウランに触れている以上、被曝は終わらないわけです。しかも今もなお、世界中で何万トンと掘り続けている。だからそこは「だめ」と、原発とか云々以前に言いたくなるんです。「とりあえずストップしよう」と。

●それが「ウランじゃだめ」に繋がる。

S:あとは「そういう歴史に対して、恨みつらみを言ってる場合じゃない」という、ダブルのミーニングがあります。あともう一つ言いたいことは、その「ウランへの執着」というのは第二次世界大戦時のロマンだったわけであって、それを正当化するために原発の技術が生まれ、それをどうにかどうにか抑えようとして人間はあらゆるものを費やしてきたわけです。核燃料サイクルというものを思いついたのもそうだし、再処理の技術、プルサーマルとか高速増殖炉を考えてということも、後付けの後付けでどんどん大きくなって、結果としてそれ自体が産業になった、いわゆる癌みたいなものなんですね。だけどその実体は、実は技術としてはすでに古い。エネルギーとかに関して、本当はもっと賢く、もっと安全で、もっとパワフルなエネルギーもあるかもしれない。または単純に言えば、もっと効率よくやっていけば、そんなものに頼らなくても十分やっていけるということもある。これはウランに限って言えることでもないんですが。

●今の経済的な、どんどん現状以上の成長を望むというような、そういう思考回路そのものが古いと。

S:それもそうですし、これは学術とか研究の現場でも、すでにみんながウランについて知り尽くしちゃっている部分があって、もう科学のフロンティアじゃないんです。今は遺伝子工学とか量子力学、ナノ・テクノロジーが最先端だから、本当は「原子を割る」なんていう昔の技術じゃなくても、できるはずなんです。

●では、それでもここまできてしまったのは、人間がもともと内包している探求心や必然性みたいなものが導いた?

S:普遍的には僕はそうは思わないし、それは一部のマッチョな、アメリカの軍国主義に象徴されるマチズモが引っ張っていったものだと考えています。これはすごく組織的に行われたことであって、宇宙開発とかと一緒で、ある意味表層ですよね。特に原発に関しては、テクノロジーとしては進化していけばいいかもしれませんが、現場では3,40年経ったら廃炉にしなければいけないとか、普通に配管が錆びたりっていう問題が自然におきてしまう。ということは、仮に「進化していけばいい」というコンセプトとしては正しいとしても、「じゃあ、誰が後始末するんですか?」という話だと思うんです。

●また原発事故後、日本では東電から広告をもらっていれば何も言えないとか、実は戦時中のような検閲がずっとあったんじゃないかという話になりました。

S:そういったことを感じないために、自分はインディペンデントの立場にいるということもあります。とはいえ、それにしたって僕にも矛盾はたくさんあって、そういうことをわかった上でアプローチしてくれる人とは仕事をしますが、でもやんわりと「政治的なことは言わない方がいいよ」と言われることもあります。

●2006年のレポートに、「アメリカと日本には、せめてまだ発信する自由がある有難さを噛み締めて」という言葉がありました。

S:それはそうです。「これが他の国だったら」って思うことはありますね。

Shing02 x Chimp Beams『ASDR』

“ダークなダンスミュージック”をコンセプトにNY・ブルックリンに在住するMarihito、Yusuke Yamamoto、K-GO Mizutaniの3人の日本人によって2001年に結成されたエレクトロニック・ジャズ・ダブ・トリオChimp Beamsによるトラックと、Shing02の英語詩が融合したコラボレーションアルバム『ASDR』が4月25日に発売となる。レーベルメイトのDorothea Tachler、Shing02の作品ではお馴染みDJ Icewater、トランペッターのTakuya Kurodaが参加。

また、Shing02は多数の客演をこなす傍ら、まだ謎が多い日本語作の「有事通信社」も控えている。


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