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『Blue Beat Bop!』山名昇責任編集の魅力


Text and Photo by Makoto Honne 本根誠

91年に初版が発売された山名昇責任編集『Blue Beat Bop!』が初版から22年、今回で三度目の出版となった。通常なら、音楽書籍は一年かそこらで在庫ナシ(事実上の絶版)というものが殆どであるが、その度に出版社を変えつつ22年もの間スカ、レゲエファンに親しまれ続けている異例の長寿本である。今日はじっくり山名さんに取材して、この本の魅力を改めて考えてみる。

●まずは91年の初版発刊のいきさつから教えてください。

山名(以下Y):昔、仲間が作ってた「レゲエ・マガジン」という雑誌で“ビンテージ・ジャマイカン・ミュージック・マラソン試聴会”というレコード・ガイドの読み切り連載をやっていて、最初はその原稿をまとめた本を出そうか、という話だった。でも、連載自体を何年もやってて情報も古くなってたし、出てすぐ廃盤なんてCDもあって、じゃあイチから書き下ろしたものにしようということになって初版に至ったんだ。まず最初が日本のレゲエのスタートに寄与したタキオンから。そしてまだ景気の良かった2001年にはアスペクトという当時新進だった出版社。それで今回は、スカやパンクに貢献してきてるディスクユニオンのDUブックスという流れだけど、時代の流れにも妙に合ってる気がするね。

●『BBB!』がここまでの長きに渡って流通し続けている理由として、まずは山名さんの文章の面白さを挙げなくてはいけない。イントロでいきなりスキンヘッド・レゲエやカリプソなど、スカ・ファンの中でも第二段階といえる世界を紹介し、迷路でさまよう楽しさに我々を引きずりこむ。更に来日のたびに少しずつ事実検証を進めていくリコ・ロドリゲスへの愛のこもったルポなど、クールなようで熱い、山名さんでなければ書けない世界がある。

ぼくらみたいな長年のファンの間では、山名さんの文章は“山名節”と言って、スカ、レゲエの紹介や評論を超えたところで、まず文章として最高!ってことなんですが。

Y:文章の面白さを評価してもらえるのは嬉しいけど、例えば初版から今回の版に至っても、当時スカ・フレイムスのメンバーにお願いした原稿は秀逸だから残してる部分もあるし、山名昇の単行本という気持ちは希薄かな。ただ、最初からディスクガイド本にはしたくなかった。レコードを持ってる人達の披露の場とは違うものにしたいと思った。

●“ライター山名“についての高評価には、照れもあるのか“編集者山名”からするとうれしい計算外だそうだ。しばらく食い下がって話していくと、グリール・マーカス『ミステリー・トレイン』、ネルスン・ジョージ『リズム&ブルースの死』のような一人称性の高い評論が好きだという。いずれもロックやソウル・ファンの中では定本といえる名著だ。著者山名昇のハードルは一貫して“読み物として秀逸”であることに視点をおいているのだろう。そして『BBB!』を紹介するとき、大きく触れなくてはいけないのが、山名さんの採集→編集の丁寧さ、時には偏執的ともいえる精細さだ。彼はこの本に関して、著者であると同時に本全体の流れを決める編集者、そして装丁から文字の大きさや紙質に至るまで責任を持つプロデュサーとして関わっている。それを総称して【山名昇責任編集】というのだが、この“編集者山名”マジックには舌を巻く。スタジオ・ワン、リー・ペリー、ウェイラーズといった大きな幹に正面から長文でチャレンジする姿にも勿論清々しいものがあるが、スカ・ファンなら聴いておくべき50年代アメリカンR&Bのリストが巻頭で躍っていたり、シカゴのイムプレッションズがいかにジャマイカン・ポップスに影響を与えた存在だったかを書き倒した章があったり、とことんディテール、枝葉を大事に見つめるその姿勢は決してトリビアルに終わらず、読みおわった人に何か熱いものを残すのだ。

では編集者として、この本がこんなにも長寿本になった理由は何だと?

Y:たとえ話で言うと、俺は地図を作りたかったんだ。初版の段階では分かっていなかった事柄なんかが十年の間に解けてきたりして、2001年の第二版では原稿を足したし、改訂もした。今回は版元からなるべく第二版のまま出したいという希望をもらって、俺もアグリーメントしたよ。あれ以上マニアックなものは必要ないと思ったし。俺は地図は作ったぜ。あとはこの地図片手にみんなが何処へ行くのか、それはご自由にって感じかな(笑)。だから、定本と言われるのはすごく嬉しいけど、教科書とは言われたくないんだ。おれは何も教えてはいないから。地図を片手にうろうろする人の頑張りに期待する。

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